地域でこどもたちの自発的な育ちを支援 青森県弘前市での取り組み




「こども×あそび×地域参画」をテーマに研究しています。その一環で取り組んでいるのが、「こどものまちミニひろさき」です。国際児童年を記念してドイツ・ミュンヘンでスタートした取り組みで、こども達が「したいこと・やってみたいこと」を仲間と協力しながら自発的に取り組むことができる活動です。職業体験ではありません。
ミニひろさきは冬休みに2日間開催されます。当日のみ参加する小学1年生から6年生の「市民」。そのほか、4年生から6年生で構成される「こどもスタッフ」がいます。彼らが数か月前から具体的に構想していきます。
文字どおりこども「だけ」のまち。世界観を保つため、保護者の見学は一切お断り。視察や取材も最小限にしています。サポートするメンバーは先住民族「らぶチアーノ族」と、中高校生世代で構成する「らぶチアーノ族ジュニア」。オトナ匂を出さないよう気をつけながら活動を支援します。
「プログラム」や「ルール」はほとんどありません。決まっているのは「入出国」の時間と疑似通貨ぐらいです。合言葉は「したいことはどんどんしよう」「困ったことがあったら、羽が生えている人に相談してね」。
お仕事をして通貨を得ることができます。通貨で買い物もできます。空き地を購入して起業したり、自分たちの居場所をつくったりもできます。土地を高値で転売する市民も登場しました。銀行では貯金やローンが組めます。これまでローンを完済できなかった市民はいませんでした。警察署が立ち上がったことも。会場内を走っている市民を容赦なく検挙して反則金を徴収。しかし、反則金は警察官の懐へ。発覚したらデモが起きてすぐに廃業となりました。
常連の市民は作戦を練って参加しますが、初参加の市民は戸惑うようです。特に一人で参加した1年生のなかには、どうしたらよいか分からず泣き出す子もいます。すると、周囲の市民が仲間に誘う様子が見られます。1日目でまちの様子をつかんだ市民は、夜にいろいろと準備をして2日目に挑んできます。あえて「何もしない」という市民もいます。
インフレ・デフレも発生します。超インフレになった時は、銀行からお金が枯渇しました。そうなると、まちはギスギスした雰囲気に。すると、イベントが自然発生的にはじまります。ダンスパフォーマンス、カラオケ、津軽手踊り、謎解き大会など。ある市民がステージで通学する小学校の校歌を熱唱すると、つぎつぎに校歌を歌う市民が…。20もの校歌が立て続けに披露されたのは圧巻でした。 こどもたちだけで知恵やモノを持ち寄り、試行錯誤しながら何かをやり遂げる。その過程がとても楽しいようです。大人の価値観が存在しないからこそ、「こどもたちならではの公共」が発生します。このような機会を通して、人との交わりや社会に参画していくことの面白さが伝わればと願っています。(文:深作 拓郎 イラスト:渋谷 薫)

お話してくれた人
深作 拓郎
茨城県出身。岩手大学准教授。社会教育学を専門とし、こどもの放課後や学校外での活動について研究している。

絵をかいた人
渋谷 薫さん
イラストレーター・グラフィックデザイナー
東京都在住 多摩美術大学卒業 イラストレーション青山塾修了
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