健やかさのヒント
当たり前も幸せも、人それぞれ
先日、札幌行きの電車に乗ったときのこと。大きな声で泣いている子がいて、思わずハッとしました。
「そうだ、子どもは元気だから泣けるんだ」――そんな当たり前のことに胸が熱くなったのです。大袈裟にいうと、まるで世界というものに初めて出会ったような気持ちでした。
私は子どもの医療の編集者で、香西(こうざい)といいます。今は、北海道の小児集中治療(PICU)という、命が危ない子どもたちを支える医療にかかわっています。よく「お医者さんですか?」と聞かれますが…ただのこうざいです。
私が現場で出会う子どもの多くは、泣くこともできません。起きているのか、眠っているのか分からないこともあります。
だから、わんわんと泣く子を見て、「泣かない子が当たり前の世界」から「泣く子が当たり前の世界」にきたように感じました。
それから改めて、「当たり前」は人それぞれだ、としみじみと噛み締めました。一人ひとり違う人間なのだから、幸せや当たり前のカタチも、そりゃちがうよね、と。
札幌に着く手前くらいで、ひとり、そう小さくさとったのでした。
子どもの健やかさは、親が自分を大切にすることから?
私が関わっている活動にはまた「意思決定支援」という活動があります。生きられる時間が短かったり、不登校や障がいのある子どもが「どうありたいか」一緒に考えたり、歩いたり立ち止まったりします。
それは、「クラスの子と同じ幸せ」や「お隣の家族より幸せ」ではなく、その人ならでは、その家族ならではの“健やかさ”や“幸せ”を探す旅です。
その過程で、親御さんからお話を伺うこともあります。「つらいのは頑張っている証拠ですね」とお伝えしながら聞くような内容も、少なくありません。
そんなとき、実は、子どもの幸せや健やかさのためにも、まず親御さん自身が自分を大切に、と心から思っています。
自分を嫌いにならない・自分に無関心にならない選択を
子育てでは子どもの幸せを願って、人を大切にできる子に、とよく言われます。そのためにも大事なのは、まず自分自身を大切にすること。
自分にとって一番身近な「自分自身」を認め、痛みを分かり、大切にできてこそ、人の痛みにも寄り添えるようになります。
けれど我々おとなは、わりと簡単に自分を後回しにします。子どものためと自分のためが混ざってしまうと、子どもの人生を代わりに生きてしまうことさえあります。
だから、
▫️自分に無関心にならないこと
▫️少なくとも自分を嫌いになる選択をしないこと
▫️自分を大切にすることをあきらめないこと
――こんな姿勢をお伝えする時があります。親御さんを誰より大切に思っている子どもの健やかさにも直結すると思ってお伝えしています。
健やかさをはぐくむPCEs(子ども時代のポジティブな体験)
さて、そのうえで子どもの健やかさを考えるとき、近年注目されている「PCEs(ポジティブな子ども時代の経験)」という考え方をお伝えします。
安心や信頼を感じられる経験が、子どもに困難を乗り越える力や心の回復力を育むと研究で示されています。
PCEsの例
▫️信頼できる大人(親、先生、地域の人など)や友人との関係
▫️学校や地域で「自分はここにいる」と思える居場所
▫️感情的な支え、安全や保護の実感
▫️地域活動や学校行事への参加
▫️自分の気持ちを理解し表現できる体験
これらはすべて、自分を大切にできる場にいること、大切にする経験であることも分かります。
「遊ぶこと」は楽しい経験の際たるもののひとつ。思いっきり遊ぶことの一つひとつが、子どもの心を健やかにしていきます。
小さな「自分を大切にできた」と思える瞬間の積み重ねが、子どもの健やかさのベースになります。
(文:香西 杏子 イラスト:渋谷 薫)

お話してくれた人
香西 杏子さん
医療編集者。一般社団法人ハートキッズライフリンク(ハート)代表理事、TRON編集長、公益社団法人子どもの発達科学研究所。
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普段はゲーミフィケーション型の楽しいワークショップ「いじめ予防ゲミワ(1)」や絵本「いじめ、みちゃった!(2)」などを活用した、子どものつらさが「起きる前に防ぐ」ことを目的とする啓発活動も行っています。

絵をかいた人
渋谷 薫さん
イラストレーター・グラフィックデザイナー
東京都在住 多摩美術大学卒業 イラストレーション青山塾修了
絵をかいているとき とても楽しい
私のかいた絵をみた人が 楽しい気持ちになってくれたら 楽しいがふえて とてもしあわせ そんな絵をかきつづけたい
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